日常1 《黒猫亭の看板娘》

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・・・【ガチャ。】 ドアノブを回し、ゆっくりと倉庫に足を踏み入れる。 中は少し埃っぽく、また使わなくなった資材が入っているのでしょう。 多くの段ボールが積み上げられていました。 衛生的な事を考慮に入れてか、窓は風通しを良くする為に開かれています。 もちろん網戸が張ってあるので、万が一段ボール製の檻から逃げ出しても窓を使用して部屋から逃げる事は出来ません。 その部屋の中央。 そこにはミカン箱程度の大きさの段ボールがポツンと置かれています。 ・・・【ドンッ!】・・・【ドンッ!】 中から段ボールに向かって体当たりでもしているような音。 その音が響く度に段ボールが【ズッ・・・ズッ。】と目的もなく場所を移動しています。 それに・・・微かに香る鉄分の臭い。 ・・・血の臭い。 尾野さん(仮名)の仰る通り、檻に閉じ込められたじゃじゃ馬は怪我をしているようですね。 私はゆっくりとミカン箱に足を進ませます。 気配・・・でしょうか? じゃじゃ馬さんは私が近付く度に、その気配を察知しているかのように暴れるのを増しているようです。 そして、私が後1歩の所まで来た頃には段ボールは激しく上下左右に暴れていました。 まるで、その即席で作られた段ボール製の檻が意思を持ち、ひとりでに動いているように。 いやはや、まだ顔も合わせていないのに嫌われたものですね。 私は段ボールをソッと掴むと、丁寧に梱包された段ボールのガムテープを一気に引き剥がす。 それと同時に段ボールの口が勢い良く開かれる。 開かれたと同時に灰色の影が放たれた矢のように私の顔をかすめました。 その灰色の影は、もちろん猫。 シュッと引き締まった身体に特徴的な鍵尻尾。 左耳は欠けていますが、美しい毛並みをしたお嬢さんです。
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