日常1 《黒猫亭の看板娘》

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灰色の彼女は辺りを見回すと、部屋内を縦横無尽に走り回ります。 おそらく出口を探しているのでしょう。 その血で濡れた額で、必死な眼光で・・・貴女は何をしたいのですか? 私はミカン箱の横に腰を降ろすと、部屋内を走り回る灰色の彼女を眺めていました。 特に何もせず、ひたすら彼女を観察する。 彼女は今、興奮しています。そんな彼女に無理矢理アプローチしては嫌われてしまいます。 女性の話を聞くときは焦らず、ゆっくりと。 これは鉄則であり絶対なのです。 《みぁー!》 ・・・ほらね。 出口無いと分かった彼女は走り回るのを止め、私に向かってアプローチをしてくれました。 そして何と綺麗な声でしょう。 まったくもって、愛らしい。 しかし、貴女のアプローチを素直に受ける訳には行きません。 話を聞く段階まで来たら、ある程度の駆け引きが必要です。 女性の言うままに行動しては将来、尻に敷かれてしまいます。 お互いに意見を言う事がお互いの成長に繋がるのです。 私はポケットから白いハンカチと血止めの軟膏を取り出します。 そして私の膝上を【トン、トン。】と二回叩きます。 「貴女の話を聞きましょう。しかし、その前に私の膝上へ。傷の手当てをします。私の要求を受けないのであれば、貴女の要求も受けかねます。」 ・・・? 何故でしょう? 彼女は私を凝視したまま硬直しています。 右前足なんて上げたままです。 私が不思議に思っていると彼女は我に返ったのか、ゆっくりと私の元へ歩いてきました。
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