日常1 《黒猫亭の看板娘》

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原因はミアの心・・・いや、トラウマとも言えるかも知れない。 心と言うのはとても不思議なもので、傷付きやすいものだ。 その日、ミアと老婆は近くの商店街に買い物に出ていた。 昔は手を伸ばした老婆を激しく拒絶したミアだが、今では1人と1匹で仲良く買い物に行く程だった。 その姿は近所でも有名で、とても微笑ましく暖かい風景だった。 老婆の歩くスピードに合わせ、ちょこちょこと歩くミア。 ミアの視線はいつも老婆を捉え、まるで犬のように従順に見えた。 老人は言う。 【婆さん。買い物は儂が行く。最近、よく転ぶじゃろう?あまり無理せんで・・・】 老婆は言う。 【あら、大丈夫ですよ。歩かないと歩けなくなってしまうし、ミアも来てくれますから。】 自分をゆっくりと撫でながら笑う老婆を見て、ミアは何となく理解していた。 ・・・お爺ちゃんが心配してる。 ・・・お婆ちゃんが心配をかけないようにしてる。 ・・・じゃあ、私が護ろう。 お婆ちゃんが怪我をしたら、お爺ちゃんがまた震えてしまう。 あの日のように、お爺ちゃんの目から水が流れてしまう。 ミアは老人の悲しい顔が、老婆の悲しい顔が大嫌いだった。 だからミアは家の敷地内からどちらかが外出する時は必ずついて行った。 たまに老婆について行く時に老人が外出する時もあった。 そんな時、ミアは烈火の如く怒った。 《おい!何処にいた!心配するだろう!》 【な、何じゃミア?突然・・・】 《何処かに行くときは私をつれて行け!危ないだろう!!》 【ば、婆さん。何でミアは怒っているんじゃ!】 《外は危険がいっぱいだ!カラスに同族に車!危ないんだぞ!!》 【お爺さんがミアを置いて散歩に行ったから怒っているんじゃないですか?】 【いや、しかしミアは婆さんと・・・】 《聞いているのか!?おい!》 【す、すまんのぅ。これからはミアがいる時に散歩に行こう。一緒にのぅ。】 老人はゆっくりとミアを撫でた。 《ふ、ふん!撫でられたって私は・・・ちょ!くすぐったい!止めてくれ!》
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