日常1 《黒猫亭の看板娘》

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それから老夫婦の外出には必ずミアがいた。 彼女には使命感があった。 必ず2人を護ると・・・。 塀の上にカラスがいれば勢い良く飛び出し追い払う。 他人の飼い犬が老夫婦に吠えればミアも負けじと唸る。 老夫婦にはそれが遊びに見えてしまっていたのだが、ミアにとってはそうではなかった。 商店街の魚屋が老婆に声をかける。 【お!買い物かい!?倉持の婆さん!今日も一緒だな!ミアちゃん!】 《おじさん!お婆ちゃんにサービスしてくれ!》 【お!可愛いな!じゃあ、ミアちゃんにメザシあげちゃう!】 《ちがっ!?私じゃなくて、お婆ちゃんに!》 商店街の八百屋が老婆に声をかける。 【やぁ、倉持さん!今日は何にします!?お、ミアちゃんもいるねー!】 《おじさん!お婆ちゃんに渡す野菜は半分だ!重いからな!》 【おー。ミアちゃんはいつも元気だ!じゃあリンゴをサービスしちゃおう!】 【ありがとう。八百屋さん。ミア、後ですりおろしてあげるからね。】 《ありがとう!おじさん!》 買い物も一通り終え、帰り道。 ミアは気付かなかった。 いつもと帰り道が違う事に・・・。 老婆に神経を向けていた為に気付かなかったのだ。 いや、老夫婦との暖かい生活がミアの神経を、集中力を削ったのかも知れない。 運悪く、その日はいつもの帰り道が下水工事の為に封鎖されていたのだ。 近隣住民には工事開始の説明がチラシとして配布されていた。 商店街に行く時はまだ工事は始まっていなかった。 しかし、買い物を終えた今の時間は丁度、工事中である。 だから老婆は行きはいつも通りの道、帰りは回り道で帰ろうと考えていた。 ミアにとっては、これも不運だったと言える。
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