日常3 《ヤンキーと少女とお弁当》

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その緩い修行に二階堂は思わず「あのっ。」とクロに声をかけてしまった。 「はい。何でしょう?」 「い、いや。なんつーか・・・緩くないっすか?」 「緩い?」 「あ、いや。俺、もっと厳しい感じなのかと・・・メニューも・・・普通だし。」 「二階堂君。貴方は、お弁当にフランス料理が食べたいですか?」 「あ・・・いや。」 「私もです。死ぬ前に麻婆茄子とフランス料理。どちらかを選べと言われたら・・・私は麻婆茄子を選びます。茄子は敵ですが・・・死ぬ前の最後の食事はやはり麻婆茄子が良い。」 ・・・茄子が嫌いなのに最後の晩餐に麻婆茄子を選ぶ。その気持ちは全く分からなかったが、二階堂はクロの言いたい事がなんとなく分かった。 「・・・高級料理より・・・いつもの味ってやつっすね。」 クロは二階堂の答えにニコリと微笑むと、「では続きを?」と問い掛ける。 二階堂は力強く頷くと「お願いします!」と気持ちを新たにクロの説明に耳を傾けた。 その真剣な姿勢は本当に師匠と弟子のようであった。 途中、トトがちょっかいを出そうと右手にゴキブリのおもちゃを握り締めるが・・・。 「そうです。先に卵かけご飯を作りなさい。それに下味をつけて炒めれば、ご飯はパラパラに・・・。」 「お!?押忍!し、師匠!黄身と白身って、どうやって分けるんすか!?」 額に汗を流しながら料理を学ぶその姿に、トトは握り締めたおもちゃをゆっくりと手放す。 そして、頬杖をしながら料理に苦戦する二階堂を楽しそうに眺めるのであった。
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