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あたし、三井花音はこの世に生を受けてからの26年間、一度も、と言っても過言ではないほど幸せな日常はない。
超がつくほどヒサンな日々を過ごしていた。
いや、過ごしている、だ。
それもこれも、全部、この目の前でニコニコしている男のせいだ。
そう、全部こいつのせい。
「ね? 花音」
語尾にハートマークでもつきそうなほど満面の笑みで小首を傾げているこの男、世間で言う幼馴染の浦原暁。
あたしのひとつ上の、向かいに住むステキ夫婦の息子。
暁はステキ夫婦のDNAを潔く全て受け継いで生まれてきたとしか思えないほど美しい容姿をしていた。
ほんの少し分けてもらいたいくらいだ。
いや、いっそのこと交代したいくらいだ。
もちろん容姿だけ。
男の子顔負けの運動神経とヤンチャな性格を持ち合わせていたあたしは、
女の子顔負けのお淑やかさと穏やかな性格を持ち合わせた暁と、
物心ついた頃から、よく比べられていた。
「花音ちゃんは男の子に生まれ
てきたらよかったのにね」
今思うと、決してあたしを傷つけようとして発せられた言葉ではないのだと思う。否、思いたい。
「暁ちゃんは将来が楽しみね」
あぁ、確かに楽しみだったさ。きっと宇宙一ステキ男子になるはずだろうさ。
でもあたしは暁が嫌いだった。
なぜなら暁は男の子だから。
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