第一話『幻想入り…』

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ー??? 早朝…"周囲"から鳥の囀り(サエズリ)が聞こえる… …待て、"周囲"だと? 床…いや、よく考えれば…もとい、よく見れば"地面"だ。 (通りで硬い訳だ…腰と首が痛いぞ…(汗) 昨日、湯上がりに部屋着に着替えてそのまま寝た。 もちろん、"家"でだ。 誰が好んでキャンプ道具も無しにこんな"森"で薄着で寝るだろうか… (まぁ、状況を知らない奴が聞いたら間違いなく俺の事を指差すだろうがな…) 日の傾き方からして早朝三時程…季節はおそらく晩春… 妙な暖かさと、つくしに良く似た奇怪な植物が証拠だ。 (しかし…俺は何故此処にいる? 状況を整理しよう…俺の名前は… 名前…? 何故…名前が"わからない"?) 記憶に何らかの、そして原因不明の障害が解った。 湯上がりから布団に行くまでの記憶はある。 その他が全くと言っていい程"覚えていない"。 親しかった友人の顔も…恐らく居たであろう家族の顔も…そして今此処にいる俺自身さえも…。 全てにおいて…記憶が無かった。 すると…耐えようの無い悲しみが、俺を襲った。 声は出なかった。 ただ木の幹に背中を預け、朝靄に未だ包まれた早朝の空を… ぼやけた視界で、眺めていた。
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