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軽やかに階段を下りる。
飛ぶように、しかし出来るだけ素早く。
後ろから、足音が迫っていたのだ。
踊り場に到着したと同時に、貫くような衝撃が身体に奔る。
振り向く。
無敵だと感じた重厚な扉は、無残にも凹んでいた。
そして、彼女は僕を見下ろしていた。
澄んだ黒髪は、薄闇の中でもやはり美しい。
これほど早く駆け付けた彼女に内心で感心ながらも、僕は笑顔を張り付けて口を開く。
「なにかな?」
彼女は僕に指を突き付けた。
「今、見ましたね?」
「見た? 何を言っているんだい。訳の分からないことを言って貰っても困るな」
やれやれ、と肩をわざとらしく竦め、僕はお決まりの否定台詞を並べる。
咄嗟にこんなことを言える自分に拍手喝采を送りたかったが、彼女の視線は和らがなかった。
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