復活

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ふと耳に子供達の遊ぶ声が聞こえた。チャッピーは、思った。昔は、俺も健ちゃんと遊んだな~。夢から覚めたような気がした。歩ける。行こう。肉体の疲労回復とともに、わずかながら希望が生まれた。日没までには、まだ間がある。俺を待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人がいるのだ。俺は、信じられているのだ。俺の命などは、問題ではない。死んでお詫びなどと気のいい事は言ってられない。俺は、信頼に報いなければならない。今は、ただその一事だ。走れチャッピー!!俺は、信頼されてる。あの魔王の囁きは、あれは、夢だ。悪い夢だ。忘れちまえ。正直な男のままにしてしなせてください。道行く人を押し退け、跳ね飛ばし、チャッピーは、白い風の様に走った。少しずつ沈んでゆく太陽の、百倍も早く走った。旅人とさっとすれ違った瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。「今ごろは、あの男もはりつけになって殴られているぞ!。」ああ、その男のために俺は、今こんなに走っているのだ。その男を死なせてはならない。急げチャッピー、遅れてはならない。風体なんかどうでもいい。チャッピーは、ほとんど裸だった呼吸もできず、二度、三度口から血が吹き出た。見える。はるかむこうに小さく、巣鴨の町のキングキャッスルが見える。 「ああ、チャッピー様。」うめくような声が、風とともに聞こえた。 「誰だ。」チャッピーは、走りながら訪ねた。「ヤッチャンでございます。あなたのお友達、健ちゃん様の後輩でございます。」その若い後輩は叫んだ。 「もう、だめでごさいます。無駄でございます。走るのは、やめて下さい。もうあの方をお助けになることは、できません。」 「嫌、まだ日は沈まない。」 「ちょうど今、あの方が殴り殺される所です。ああ、あなたは、遅かった。お恨み申します。ほんの少し後ちょっとでも、早かったなら!!。」 「いやまだ日は沈まぬ。」チャッピーは胸の張り裂ける思いで大きい夕日ばかりを見つめていた。走るよりも他は無い。「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。今は、ご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じておりました。刑場に引き出されても平気でした。キング様が、さんざんあの方をバカしてからかっても、チャッピーは来る、とだけ答え、強い信念を持ち続けている様子でございました。」
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