救出

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言う必要はない。まだ日は、沈まぬ。最後の死力を尽くして、チャッピーは、走った。チャッピーの頭は、空っぽだ。何一つ考えていない。ただ、訳の分からぬ大きな力に引きずられて走った。日は、ゆらゆら地平線に沈み、まさに最後のいっぺんの残光も消えようとした時、チャッピーは疾風のごとく刑場に突入した。間に合った。 「待て~。その人を殴り殺しては、ならない。チャッピーは、帰ってきた。約束のとおり帰ってきた。」と、大声で刑場のやじうまに向かって叫んだつもりであったが、喉が潰れてしわがれて、声がかすかに出たばかり、やじうまは、一人として彼の到着に気がつかない。既にはりつけの柱が高々と建てられ、縄を打たれた健ちゃんは、ジョジョにつりあげられてゆく。チャッピーはそれを目撃して最後の勇先刻、だく流を泳ぐようにやじうまをかき分け、「俺だ、キング!殴り殺されるのは、俺だチャッピーだ。彼を人質にした俺は、ここにいる!。」と、かすれた声で精一杯どなりながら、ついにはりつけ台に登り、つりあげられてゆく友の両足に、かじりついた。やじうまは、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。健ちゃんの縄は、ほどかれたのである。
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