旅立ち

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チャッピーは、激怒した。必ず、かの邪知暴虐のキングを除かなければならねーと決意した。チャッピーは、政治がわからない。チャッピーはフリーターである。レジを打ち友達と遊んで暮らしてきた。けれども邪悪に対しては人一倍敏感であった。今日未明、チャッピーは、西高島平を出発し、電車を乗り継いで、十里はなれた巣鴨にやって来た。チャッピーには、父も母もない。彼女もいない。十八の内気な弟オンガッタと二人暮らしだ。このオンガッタは、町のある無職人を花嫁として迎える事になっていた。結婚式も間近なのである。チャッピーは、それ故、花婿の衣装やら祝宴のごちそうを買いに、はるばる巣鴨にやってきたのだ。まず、その品々を買い集め、それから巣鴨の大路をぶらぶら歩いた。チャッピーには、竹馬の友がいる。健ちゃんである。今は、この巣鴨で、アルバイトをしている。その友をこれから訪ねるつもりなのだ。久しく会わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。歩いていくうちに、チャッピーは、巣鴨の様子を怪しく思った。ひっそりしている。もうすでに日も落ちて、巣鴨の町の暗いのも当たり前だが、けれども、なんだか夜のせいばかりではなく巣鴨全体がやけに寂しい。のん気なチャッピーもだんだん不安になってきた。道で若者を捕まえて、何かあったんですか?二年前にこの巣鴨に来た時は、夜でもみんな騒いでいた。巣鴨はにぎやかだったはずではないのですか?と質問した。若者は全力疾走して逃げてしまった。しばらく歩いておじいさんに会い、今度はもっと語勢を強くして質問した。おじいさんは、答えなかった。チャッピーはおじいさんの体をゆすぶって質問を重ねた。おじいさんは人目をはばかる小声でわずかに答えた。 「キングは人を殴り殺します。」 「たくさん人を殴ったのか?」 「はい、初めはキングの妹を、それから弟を、それから、両親を、殴り殺しました。」 「驚いた。キングは短気か」 「はい、短気です。人を暇だから殴るのです。この頃は、臣下のこともお殴りになり、裕福な暮らしをしているものには、人質一人ずつ差し出すことを命じております。命令を拒めば十字架にかけられて殴られます。今日は、六人も殴り殺されました。」聞いてチャッピーは激怒した。「あきれたキングだ。生かしておけない。」
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