第二章:輪廻転生

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『……はい。本当は心根の優しいいい子なんですけど……』 哀しみに満ちたその声には確かに教え子を心配する気持ちが窺えた。 羨ましい、と思う。 現代にはこんないい先生いないから。 ――怖くないと言えば嘘になります。けど松陰さんがそこまで見込んでる方。少し安心しましたよ。じゃあそろそろ……。 私はどうやって幕末に行くのか早くも胸を高鳴らせる。 松陰さんはそうですね、と呟くと映画館のスクリーンのさながらの大きさの夜の江戸時代の町々の映像が私の前に映し出した。 『あ、大事なこと言うのを忘れてましたがどんなことがあっても向こうでは素性を打ち明けてはいけませんよ?』 ――何故? 『そんな事明かせば不審者と見なされ奉行所に連れてかれるか精神のおかしい者と見なされ医者に連れてかれるかの二つに一つです』 ――……確かに。 妙に納得してしまった。 そして忠告をしかと胸にしまい込む。 『池田屋事件は元治元年六月五日。ここに飛び込めば幕末――同年二月、ちょうど池田屋事件の四ヶ月前、現代の季節で言うと春の京に行けます』 ――わかりました。 『その頃はまだ私の魂は地上をさ迷っていたので今のように貴方と会話することもできません。私は何の手助けできませんが……無事を祈ってますよ』 私は松陰さんの言葉を聞いたのを最後に恐る恐る京の街並みへと飛び込んだ。
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