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私は松陰さんの無言の理由を探ってはみたが彼はやがて自ら喋り始める。
『貴方は先程平成の世に戻りたくないと仰っていましたが貴方が私の願いを叶えた時には私は消えてしまうので……』
――平成に戻らなければならなくなるってことですか?
『……はい』
松陰さんはその事に気をかけていたが私にとってそんな事はどうでもいい。
これはある種、挑戦。
自分の存在価値を見出す挑戦なのだから。
――構いませんよ。戻ったら戻ったで。松陰さんがいなければそもそも幕末に行くことさえできなかったんで。
そう話すと松陰さんも安堵の息を漏らしていた。
そこで私は肝心な事を訊くのを思い出す。
――そういえば松陰さんの教え子の名はなんて言うんですか?
それを知らないと守りようがないんで、と付け足すと松陰さんは快く教えてくれた。
『栄太郎。吉田栄太郎と言います』
私はその名に聞き覚えがあった。
ひょっとして……
――夢の中で人を殺めていた人……?
確か松陰さんが栄太郎、とそう呼んでいたはずだ。
あの綺麗で中性的な顔、忘れられない。
と同時にあの残虐なまでの狂気も私は忘れられなかった。
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