捨て猫

4/6
前へ
/83ページ
次へ
オオクラは俺が何も反応を示さないのを勝手に肯定的に捉え、俺の手を引いて歩き始めた。 俺はこれから、何されるんやろ。 身体を求められるんやろうか。でも、それなら都合がええかも。 正直、そういうことはこれまで何度かあった。さすがに、初めてのときは驚いたし、怖かった。 けれど身体だけなら構わない。大抵は食事や、温かい寝床を与えてもらえるから。 「着いたで、リョウちゃん。」 声をかけられて顔を上げると、目の前には見上げきれない(とまではいかないが、それに値する)程の、所謂『高級マンション』。 「で、か…っ。」 「んふ。」 ―…『んふ』。 何度か聞いた、こいつ独特の笑い声。嫌いやない。 いや、今はそれどころではない。 ここが、こいつの家なのか。 俺のような見窄(みすぼ)らしい家なしが、果たして立ち入って良いのか。 大倉はエントランスからオートロックを開け、俺の手を引いてエレベーターに乗り込んだ。 .
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1017人が本棚に入れています
本棚に追加