1017人が本棚に入れています
本棚に追加
「亮ちゃん」
「ん?」
楽屋のソファーに胡座をかいてギターを弾く亮ちゃんの隣に座った。
呼びかけるとその手を止めて、俺に微笑みかけてくれる。
「…浮気、してへんよね?」
思わず出た言葉。
そんなことありもしないって分かってるのに。
「は?いきなり何やねん。」
怪訝な表情を向ける俺とは対照的に、相変わらず微笑みを浮かべながら俺を見つめる亮ちゃん。
「……、」
俺が何も言えないでいると、亮ちゃんはギターを置いて俺の頬に手を添えた。
細くて、でも適度に男らしく骨っぽいその指先はとても温かかった。
「俺、不安にさせてた?」
思ってもみなかった亮ちゃんからの言葉。
違うのに、俺はそんなつもりで言うたんちゃうねん。
「分かってるよ。さっきのは本心ちゃうんやろ?」
「…亮、ちゃん」
「俺は好きやで。お前のこと。他の誰よりも。お前がどんなに不安になっても好き。」
そう言った亮ちゃんの笑った顔はほんまに綺麗やった。
言葉なんかでは表せない美しさ。
「…やから、そんな顔すんな。」
唇に触れた温もり。
それは俺の中の糸を切るのには十分すぎて、気付いたら俺は泣いていた。
「ごめ…っりょ、ちゃん。俺っ…」
「ふはっ。もー、泣くなよ。やからヘタレや言われんねん。」
「……っ、」
…やっぱり、亮ちゃんもヘタレな俺が嫌いなんかな。
直さなあかんよな、これは。
「ええねん、直さんで。俺は今のままのお前が好き。ヘタレでも、泣き虫でも、忠義やから好きやねん。」
涙に濡れた頬や、赤く熱を持った瞼に口付けてくれる亮ちゃん。
嬉しい言葉に、嬉しい温もり。
俺に出来ることは何やろう。
…今は分からんでもええか。
やって、これから亮ちゃんの隣でゆっくり考えられそうやから。
end.
最初のコメントを投稿しよう!