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暗い広くて寂しい部屋に、二人の人影を月が照らしている。
「このままじゃ魔界は滅亡してしまうぞ!!どうすれば…」
「…なあ、オッサン。
他の世界はどうなんだよ?」
“オッサン”と呼ばれた男は、ピクッと眉を動かすが目の前にいる長身の男に言葉を返す。
「他の世界も皆、天界の魔法で催眠状態だ。使い物にならん」
「はっ!遂にボケたか年寄りめ、まだ残っているだろうが。
小さくて醜い世界だが、使える奴がいるんだぜ?」
「黙れ若造が!大体そんな世界が有ったとしたら、とうに天界のテリトリーになっているだろう!」
怒鳴りつけられた長身の男は、わざとらしく溜め息をつきニヤッと妖しく笑う。
「だから言ったろ。
汚くて醜くて貪欲な世界だ。
正義の味方・天界がそんな世界を自分のものにしようとするか?」
「確かにそうだな…。
……それはどこの世界だ?」
月が彼の顔を照らす。
後は全て月影に呑まれてしまう。
長身の男は、楽しそうな笑みを浮かべながら窓の外の三日月を見上げ、形のいい唇を動かす。
「人間界だ」
その冷たい瞳を、月の光だけが輝かせていた。
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