内側、外側。

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しっとり濡れた地面が闇に紛れていく。涙の跡が見えなくなった代わりに、見えてくるものは闇に浮き上がる光。 「よぉ、少年」 ただ、彼は闇からのそりと現れた。彼と出会うのは二度目。初めては彼が駅の周辺の違法駐輪を整理しているときだった。黒いコートに黒い丸グラス、更には黒いハットを被った男。彼が街灯の下に居ても、闇が動いたとしか思えないくらいの黒さは、強く印象に残っていた。 「だからあの時『いけねぇな』っていったろ? 俺」 無精髭も相俟って、顔はほとんど見えないが、声は若いものだった。 缶コーヒーを俺の目の前にぶら下げて寄越す。真っ黒い缶に印刷された無糖、飲めない。 「いりませんし。知らない人から物もらうなって、先祖の教えなんです」 「和田。俺の名前。さあ、これで知り合いだ。飲め」
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