内側、外側。

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困った顔でコーヒーを受け取ると、和田と名乗った男はミルクたっぷりのラテをコートのポケットから出した。 「……なんか、ずりぃ」 「あれか、少年はブラックを飲めないのか。交換はしないがな」 声高らかに言う和田が、どうも面白くて、ふっと笑いがこぼれた。和田は目を大きくして、(といっても実際はサングラスで見えないから、大きくした風になっただけだけれど)それから、俺の隣に腰掛けた。 「少年は外側の世界と内側の世界、どちらが広いと思う?」 「なにそれ。とりあえず外側だろ。引っ掛けじゃなければ」 和田はラテのタブを開けて、中のコーヒーを一気に飲み干して見せた。 「外側は狭い。教室を見ればわかるさ。お前以外は全員内側の人間で、お前一人、半畳もない椅子のスペースで生きてる」 「つまはじき」と、和田は呟いて、空になった缶にデコピンを食らわせた。和田の手から離れた缶は、階段を転げ、寂しい音を立てて落ちていった。和田は俺のまだ空いていないコーヒーを指差す。 「苦いからってそんなところに閉じ込めちゃ可哀相だろ? 外側になんてさ」 けらけら笑いながら、和田は階段を下りて、静かに留まる缶を踏み潰した。 「ま、イレモノなんて、元々がくだらねえけどな」 背を見せたまま、少し手をふった和田は、遊歩道の一つ目の街灯を越えると、その黒い服が闇に馴染んですぐに見えなくなってしまった。 俺はコーヒーを見つめて、徐に石段においてから、急いでその場を立ち去った。どうせコーヒーなんて苦いだけだ。
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