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「そりゃあ、いけねえな」
和田。久しぶりに帰りがけ土手を歩いたのがいけなかったのか、まだ明るいというのに真っ黒い男が目の前にたっている。俺にだって、見ただけで肩を落としたくなる人間というものがいるのさ。
「なにがいけないんだ。和田さん」
この間、ふと再会した階段の近く。昼間からの黒が異様なほどに映える。お天道様の下にさらされた奴をしっかり見るのは初めてで、ただ黒いイメージだけだったコートはしっとりと輝くベルベットの生地だと知った。
まだ時折空気が冷たい中、じりじりと照らす日の光に暖められたコンクリートの階段に腰を下ろす。そろそろ温かいドリンクは遠慮したくなる気温。
川はのんびりと流れていて、風が強く吹く度にできる細かい波に、光を反射させている。
「図書室は、いわば蟻地獄だ」
和田も俺の隣に腰を下ろし、俺は蟻地獄、と咀嚼するように呟いた。
「良く言うだろ。人間は一人では生きていけないってな。そうなるとお前はどうするか。手近な連中と連む。その手近な連中とは?」
お前と同じ苛められっこだよ、と和田はそっぽを向いて言った。そして呟いた。んで、また苛められるの連鎖さ。と、くさむらに唾を吐きながら。
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