夕焼けの前で

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 いじめられっこは今日も俯いて歩く。河川敷には冷たい風が吹いて、お前の髪を靡かせた。  そんなに情けない顔するなって、俺言ったろう。薄く白い粉に塗れたお前の鞄。調理実習の時の小麦粉をぶちまけられたんだよな。背中に蛍光ペンで名前がでかでかと書かれているブレザーの制服。目立たないから大丈夫と言われて、お前、仕方なしに笑ったろう。タイヤがスカスカになっている自転車を押して歩いて、今日も我慢したなって勝手に勝ち誇ってるんだよな。  全部知ってる。なぜなら、お前は俺だから。いじめられっこは今日も俯いて歩く。夕焼け空を見ることもなく。  お前、いつだって笑ってたよ。泣きそうなときも、怒りそうなときも、いつだって笑ってたよな。でも、今日はダメだったんだよな。涙隠すのに必死で、寝たふりをして、机に伏せて袖を目に押し付けた。じんわり暖かく濡れていくの、お前、気付いたよな。もちろん俺だって気付いてた。それが痛みだと思えば、少しくらい流れるのも、仕方ないと思った。  
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