夕焼けの前で

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  春、卒業と入学の重なる季節。俺は進級して高校三年になった。環状の高速道が校門の目の前に走る校舎だから桜並木なんてないけれど、寒い日も強く射す陽光が春のにおいを風に染み込ませ、新しい教室の窓から俺の席へと春を運ぶ。 俺のクラスは三年間、クラス替えというものがなかった。学校でも力を入れた選抜、特進クラスというやつで、二年次には疎らに普通科からの編入もあったが、基本的には同じ顔触れが今年度も揃う。  正直言って俺は人気者。友達の集まりには毎回顔を並べ、クラスに欠かせない存在、だと自負してる。会田みつおが書いてたっけ「あのひとがいくから自分もいく。あのひとがいくから自分はいかない。自分はどっちのあのひとか」俺は間違いなく前者だ。  それは始業式が終わって教室に戻ってきたときのこと。アレっ、て思った。起き上がり小法師が転げるような、ころん、って音でアレっ? 見当たらない、俺の。俺の見当たらないものは鞄。そう、俺の鞄。
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