内側、外側。

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 世間では、女子のイジメは男子のそれより恐いと言われることが多いけれど、俺は逆だと思う。始業式の日から、俺はイジメというロールプレイングゲームのイジメられっこのロール(役)に抜擢された。面白さを追求するには、目立つ男子のなかの一人、であることがなにより重要だ。目立つ俺をイジメるのに最初は恐る恐るだったやつも、あっという間に過ぎた二週間の割には、集団心理と幼稚さが相まって、俺の目から涙が流れそうなほど清々しく、下らないゲームを楽しんでいた。 つい一昨日あたりに行われた体力測定では、春休み前とくらべて身長が1センチ伸びていた。荒んだ心を嘲笑うかのように身体は健康だ。いっそ病気になってしまえばいいのに。いわゆる鬱とかさ。 桜の花びらは、何度か降った雨のせいで、もうほとんど散ってしまった。今は代わりにみずみずしい青葉を幹に茂らせている。地面にへばり付いた桜の花びらが、茶色く汚く変色しているのを見て、ひどく泣きたくなった。今日も俺の上履きは、ない。 新学期、俺の席は一番後ろの窓側で、いわゆる聖域だった。聖域という名前はたしか、クラスにいくつかある友達グループの中でも俺を中心とした五人組が言い出したのが、いつのまにか広まったのだった気がする。 「聖域は汚染された」 俺は小声で呟いて、嘲るように笑った。
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