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日が暮れて、もう近辺の家々に灯りがともり始めた頃、俺は石沢商店前の自販機で缶ジュースを買っていた。
「あ、玖珂くん?」
その声に俺は振り向いた。
「あ……」
「やっほー♪」
楓ちゃんだった。
「玖珂くんってこの辺に住んでるんだ?」
暗がりで顔がよく見えないが、声のトーンからすると微笑んでいるようだった。
「ああ、まあな……かえ、み、美那野もこの辺に住んでるのか?」
いかんいかん、俺。
危うくちゃん付けで呼ぶところだった。恐ろしいな、楓VOICE.
「うん。あの角のアパートで一人暮らししてるの」
「そうなんだ……一人じゃ寂しくないか?」
「ううん、平気。わたし親いないし」
「えっ…」
これはまずいことを聞いてしまったんじゃないのか?
「あ、あのっ!……悪い、変なこと聞いちまったな……」
せっかくいい雰囲気だったのに……俺ってば最低最悪だな……。
「だいじょうぶ、慣れてるから。それにわたしの親、どっちもわたしが生まれてすぐに死んじゃったから、あんまり実感わかないんだよね」
「そっか…」
「じゃ、そろそろ帰るね。また明日会おうね、バイバイ」
そう言って楓ちゃんは去っていった。
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