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この島の長老が島民を背後に従え、スーツの男たちに抗議した。日本からやって来たという団体は、一様に汗を流しながらも真っ黒な上着を脱ごうとしない。気温が三十度を超えているにも拘わらずだ。それが誠意だと思っているのであろう。
「調査の結果をお伝えしたまでです。地球温暖化に伴う海面上昇により、この島が間もなく浸水してしまうことが判明したので、避難されるよう伝えに来たのです」代表者と思われる中央の男が、ハンカチで汗を拭いながらいった。
「だからじゃ。なぜここが真っ先に被害に遭わねばならんのじゃ」
長老は興奮の面持ちで男を睨みつける。「そうだ、そうだ」と群衆から声が上がる。日本人の団体は困惑するばかりで、なにも言葉を発することができないでいる。
「我々は、環境破壊に繋がるようなことはしていない。それどころか、環境問題には島民全体で取り組んできた」
長老は大声で背後の島民を鼓舞するように叫んだ。それに応えるように、またしても「そうだ、そうだ」と声が上がる。
「それはもう、十二分に承知しております」
日本人の団体は何度も腰を折っている。まるで真っ黒なキツツキの大群だ。
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