反転

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思考についてのあれこれが段々と溶解していっていつしかそのことに何の疑問も持たなくなっていった。五感が錆びたように鈍くなっていった。熱病に犯されたようにはぁはぁと息は絶え絶えになっていく。温泉宿の座敷のさわやかな香りまでも、そこから見える湯気景色までも、石畳の粗い文様までも、からんころんと滑らせる浴衣美人の下駄のリズムまでも、つんと立ち昇る硫黄の悪戯までも、遠くにかすかに聞こえる滝の鳴き声までも、すべてのすべての目の前の知覚は段々と歪んでいって、彼女の顔さえも歪んでゆく。それなのにそれでもなお彼女は綺麗だった。私の執着はいつしか彼女と「*」のみになっていった。そして、私は彼女の犬と成り果てた。ばうわう。 彼女の乗せた牛車を引いて市中を駆け巡る、駆け巡る血流と快楽思考。
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