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春の夜風に誘われて、ほんのりと甘い雰囲気に流されていく。
「俺じゃ…ダメ?」
「いえ、そんなことないです…。けど私、元彼と別れてまだ間もないし…」
「元カレ?過去の人なんだよね」
「ですね…」
自分が何を伝えたいのか、分からなくなってくる。
そんな五十嵐さんは、相も変わらず穏やかな笑顔を向けている。
けして無理強いはせず、ゆったりとした大人の余裕さえ漂わせて…。
「ゆっくりでいいからさ、仲良くなっていこうよ。過去はこれからの未来が、ちゃんと思い出に変えてくれるから。だから深く考えなくても大丈夫!」
「フフッ…なんか、五十嵐さんの説得力に負けそうかも」
「ハハッ、うんうん、負けちゃって?」
甘い空間が笑い声に掻き消されそうになったその時…。
「じゃあ、今から由里香ちゃんは、俺の彼女な…?」
一呼吸置いた彼が、落ち着いた声のトーンでそう言うと、しおらしく頷いた私の髪を、ゆっくりと撫でた。
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