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「おい、そんなコトしてる場合かっ。止血だっ」
慌てる俺の言葉に、聞こえないがごとくぴくりとも反応しない。
「ご苦労。お前のせいではない。治療して来い。腱は切られていないな?」
「はい。申し訳ありません」
とりあえず血止めを、と思い俺は手にある箱が邪魔なことに気付いた。
「お預かりしましょう」
俺の意図を察知した手下がそっと手を出す。
そちらを見もせずに箱を渡し、俺は懐から血止めのためにハンカチを取り出した。
じじぃが大きくため息を漏らす。
「もう一度聞こう。お前は何をしているのだ」
わけのわからない俺に呆れた目を投げると、じじぃは箱を受け取った手下に向かって言った。
「トリックスターだな。いい腕だ」
「光栄です。私はあのように無様なことはキライでして。美学に反します」
ちらりとそいつは怪我をした男をみやり、俺に目を移した。
にやっと笑うと、言った。
「マルーンブラウン、確かに頂いて参ります。ご縁があれば、また」
大きく開かれた窓からひらりとそいつは飛び降りた。
落ちて助かる高さじゃない。
驚いて窓枠に手をついた俺が外を見回したが、やつは煙のように消えていた。
じじぃは落ち着いていた。
手下の怪我は命に関わるものではなかった。
怪我をした手下は、俺ではなくじじぃに従った。
まぁ、元々じじぃの手下と言えばその通りなのだが・・・。
言葉にし難い敗北感がじわじわと這い上がってくる。
しかも俺は手に入れたばかりのコイン2枚もあっさりと失ったのだ。
有頂天になった俺を、戒めるように。
悔しさに噛締めた唇は血の味がした。
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