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「あっ!!お前水かけたなっ!!」
桶に並々と汲まれた水を両手に子どもが叫んだ。
息が白い季節。
確かに服の端が湿っているのを皮きりに『悪い』『悪くない』の言い争いが始まる。
親に水汲みを頼まれたことも忘れて、無我夢中でしぶきをかけ合う子どもを遠目に、優男が呟いた。
「黒船来航だ倒幕派だ世の中荒れに荒れてんのに、子どもはのんきなもんですねぇ」
見てるこっちが寒くなりますと、まだ雪の残る京の街を歩きながら彼は身震いした。
一つに結われた濡れ羽色の髪を歩く度揺らしながら、みたらし団子をなかなか可愛らしい様子で頬張る彼に、隣を歩いていた男は眉をひそめた。
こちらは美丈夫な彼である。
「そうやってクソ甘いもん食ってるお前が一番のんきだ。今からやること分かってんだろうな?総司」
総司と呼ばれた優男はニコリと笑う。
元が女顔だけに周囲の男がドキリとする笑顔。
「分かってますよー。土方さんじゃないんだから」
その顔に似合わない、毒のある発言に土方は眉間(ミケン)にシワをよせる。
ずいぶん短気な性格をお持ちのようだ。
そんなでこぼこコンビがゆくのは幕末の京。
政治の面でも外交の面でも大いに変革をとげたのが、この激動の時代。
右手に見えますは、天才剣士、のちの新撰組の一番隊隊長
『沖田 総司』。
左手に見えますは、この色男、のちの新撰組鬼の副長『土方 歳三』である。
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