172人が本棚に入れています
本棚に追加
アキラが入部して9人に到達した里中高野球部。
すでに一週間が経過していた。
アキラは中学時代、全国制覇したエースだけあって、入部してすぐに先輩に混じり、キャッチボールやバッティング練習をしていたが、
一方でススムは、未だボールすら握れず、ひたすらグラウンドを走り回るだけの日々だった。
サッカーで全国に出たとはいえ、野球においてはシロート。確かに足の速さくらいしか自慢できるものはない。
『いい加減みんなと混ざって練習してえ~!』
日頃のうっぷんがだいぶ溜まっている。
10周回ったところで白井監督にお願いしてみた。
『おい、じいさん。いい加減俺もみんなと混ざって一緒に練習したいぞ!』
『焦らない焦らない。ホッホッホ』
拉致があかなかったので、今度はキャプテンのケンに聞きにいく。
『キャプテンいい加減俺も混ぜてくれ!』
『たわけが!基礎を徹底して繰り返すのが一番の上達の近道なのがわからんのか!』
『じゃあなんでゴウやアキラはいいんだよー?』
『アキラは中学の実績がある。お前もこれには文句ないだろう。ゴウは、基礎練習なんてさせたら暴れるからな。例外だ』
『でも俺もみんなと一緒にやりたいんだよ!俺はサッカーで鍛えたから、体力と脚力なら誰にも負けない自信があるんだ!』
『なに?ススムはサッカーをやっていたのか!それを早く言え。ここで待っていろ』
ススムを立ち止まらせ白井監督の元へ行くケン。
『監督、ススムですが、もうそろそろ次のステップに行かせたいのですが』
『いいでしょう。彼はウチに必要な選手になりますよお。ホッホッホ』
『失礼します』
再びススムの元に戻るケン。
『ススム、グローブを持って来い!』
『は、はい!』
表情は嬉しさに満ちている。
ベンチ前でヒロミがグローブを用意してくれていた。
『やったわね。次のステップよ。ススム君』
『ヒロミさん』
嬉しいを通り越し幸せの域に入りつつある。
ヒロミからグローブを受け取り、ケンキャプテンの前に戻る。
『野球の基礎その2、守備だ!どこにつきたい?』
『ポジションとかよくわかんね!』
『たしか、外野手が空いてたな。よし、センターにいけ』
『はい!』
『いくぞ!』
カーンとケンが打った平凡なセンターへ抜けるゴロ。
『うっしゃあ!』
全力疾走で前に走る。
『ほう、素晴らしいスピードだ』
ケンも思わずほくそ笑む。
最初のコメントを投稿しよう!