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キャプテン、ケンが体育館裏にいた。
『逃げずに来たことだけは褒めてやろう』
そう言って待っていたのは二年生ながら、里中高校の番長を張るゴウだ。
『貴様、上級生には敬語を使わないか!』
『フッ、社会のルールなど俺には通用せん。ここでは俺がルールだ』
『で、勝負の内容は何なんだ?』
『勝負は簡単だ。俺とタイマンを張ることだ』
『タイマンなら何でもいいんだな?』
『んっ?ああ』
『ならば、野球で一打席勝負だ!』
『野球だとお?ナメテルのか?』
『馬鹿者め。野球こそ真のタイマンに相応しいスポーツなのだぞ!それとも負けるのが怖いのか?』
この言葉にカチンときたゴウ。
『なんだとお!良かろう、その話乗った!』
こうして、野球部のグラウンドへ2人して向かった。
『あっ、キャプテン。あれっ?あの後ろにいるのはゴウじゃないか?』
『ほんとだ。番長だ』
『おい、井川。ゴウにバットを貸してやれ』
『えっ、でも……』
『いいからよこしな』
強引に奪い取るゴウ。
『戸部、受けろ』
状況が読めないまま、受ける戸部。
『守備はつけなくていいのか?キャプテンさんよう?』
『いらん。貴様などに俺の球が当たるものか』
『ケッ、いってくれるぜ。かかってきな!』
打席に入り構えるゴウ。だが、バットの持ち方が逆だ。(右打者の場合左手が下だが、右手が下になっている。)
振りかぶり、投げるケン。シューッと綺麗な音がパアンと乾いた音に変わった。
ゴウは手が出ない。
『俺は正々堂々と闘いたいから教えてやる。持ち方が逆だぞ!』
ケンの指摘と戸部のアドバイスで持ち方を覚えたゴウ。
『さあ、二球目だ』
『こいやあっ!』
投げる球を見ずにフルスイングしたゴウ。
反転してドスンと倒れた。
『次で終わりだ!』
『くっ……』
最後の球も甘めの真っ直ぐだったが、空振り三振。
『お前の負けだ!ゴウ!』
『俺が……負けたのか』
ガクッと膝をついた。
『悔しいか、悔しいだろう。これからはその悔しさを野球ではらせ!』
『野球……』
『お前が握るべきなのは拳じゃない。バットだ!』
男泣きしたゴウ。
新たに番長ことゴウが入部した。
その闘いをランニングしながら見ていたススムは、真剣勝負の面白さを感じ取っていた。
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