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新生活―――
それは、決していい生活ばかりが待っているわけではない。
言い方だけ見れば希望にも可能性にも満ち溢れた素晴らしい響きの言葉だと思う。
だが、俺が迎えた新生活はそう簡単には人生を幸せ色に変えてはくれなかった...
新ちゃんが出て行って1週間くらいたった頃から、家には頻繁に一人の知らない男の人が出入りするようになった。
どうやら母によると、こいつが噂の好きな男らしい。
毎回行動がはやくて神経が図太いあんたを、俺はもう尊敬してしまうよ。
今度の男の名前は...
...これは公表しない事にします。
何せ、この男が今の俺の義理の親父になるのだから―――。
家に男が出入りするようになって1ヶ月もたたないうちに、母は今の親父と結婚することになった。
正直、俺は今でもこいつを親だと思ってはいない。
むしろ今までで一番最悪の親父であると思う。
まぁ過ごしている年数が一番多いせいかもしれないが...
その今まで過ごして来たこの時間を、本当はただ一人の俺のお父さんと過ごしたかった―――。
結婚の手続きを済ませてから数年たったある日
今までで一番最悪だった自分勝手な親父は、自分の独断で引越しを企てた。
しかも今度の引越し先は学区もまったく違う未知の土地だったので、もちろん俺と弟は猛反対した。
しかし、自分の思うようにしないと気がすまない短気な親父は、とうとう『しつけ』という名目の暴力で俺と弟を黙らせた...
まさか生きている間に、テレビを投げつけられるという行為を経験する事になるとは思ってもみなかった。
テレビだけではない
俺と弟は、素手や、ありとあらゆる物を使って殴りまわされた。
ストーブ
ソファー
ビデオデッキ
挙句の果てにはかまぼこまで投げつけられる始末...
普通なら笑い話だが、その場面でそんな事を考える余裕なんてなかった。
そして圧倒的な力の差に、俺たちは引越しすることを余儀なくされた。
それが俺の小学5年生の夏休みの記憶。
ただ、俺が転校してしまう最後の学校の日に、クラスのみんなが俺のためにお別れ会を開いてくれた。
その日、初めて嬉し泣きをした。
俺はその時の幸せに感じた感情も未だに忘れてはいない。
その時だけは、この思いを胸に新しい生活に立ち向かって行こうと思えた。
希望は待ってても来ないから、自分で見つけるしかないのだと―――。
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