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俺は、とりあえず小道を通って大通りに出ようと考えた。
せっかくの貴重な体験だったので、ひたすら道なき道を選んで通った。
通った事のない、道とは呼び難い通り道を抜けて行くことはとても好奇心を揺さぶり、その時だけでも俺は心細さを忘れる事ができた。
直感や好奇心で道行く事数時間程、日がとっぷり沈んでしまったらしく辺りの明かりは数本の街灯だけになってしまっていた。
俺は幼い頃のちょっとしたトラウマのせいで、閉所や暗所が大の苦手だ。
不安に駆られてゆく自分に苛立ちを感じながらも、俺は足下の見えない草木の茂った道を進み続けた。
それから少しすると、遥か先の沢山の光が俺の視界を刺激した。
どうやらやっと大通りが見えてきたようだ。
未知の通路から見知った大通りに出て来れたところで、俺の不安が取り除かれると同時に小さな冒険に別れをつげる...。
ここからは俺は一人で生きていく。
決してあんな両親の家なんかに戻るものか
俺は心に決意の杭を打ち付けて夜の街を歩いた。
街は道路が広く車の交通量が多いものの、自転車や徒歩で歩道を行く人はほとんどいなかった。
道に沿って歩き続けていると、幼い俺の空腹感が遂に悲鳴をあげた。
せめて晩飯を食べてから家出すべきだった―――
一瞬頭をよぎったそんな考えを俺は振り払いながら、ただただ歩き続けた。
そして空腹を紛らわすために、近くにあった古本屋に入って漫画を読む事にした。
しかしこんな状況で集中して読めるわけもなく、数分もたたないうちに店を出てまた歩き始めた。
あてがない...
たったこれだけの事が、ここまで苦しい事だとは思ってもいなかった。
ゴールがないのに、何を頑張ればいいのか、何をすればいいのか―――。
とりあえず古本屋の近くにあった携帯ショップに入り、恥を忍んでセルフサービスの飲料水を飲んですぐに店を出た。
店員と目は合わせない。
それでも空腹は収まらない...
俺は歩いて来た道を戻って、途中にあったコンビニに立寄った。
扉を開くと軽快なメロディとともに店員の気怠そうな『いらっしゃいませ』が聞こえてきた。
レジ前にある揚げ物が
棚に敷き詰められた飲料が
廃棄の時が近付いていく弁当が
全てが『俺』をどうかさせていく.....
もう、限界 だ
そして俺は店員が店裏に入ったのを見たところで、おにぎりを一つ、ポケットに忍ばせた―――
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