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そして俺は店員が店裏に入ったのを見たところで、おにぎりを一つ、ポケットに忍ばせた―――
あとはこのまま何くわぬ顔であの扉をくぐるだけ...
―――たったそれだけなのに...
たったそれだけなのに
どうして俺の足は動いてくれないんだろう
どうしてこれ程の涙が溢れてくるんだろう
そして、そのまま俺は店員が戻って来る前にポケットの中身を元の位置に戻した。
万引きすらできない事の自分への怒りよりも、なんて事を考えてしまったんだろうという後悔の悲しさのほうが勝った。
俺は家出してから、初めて盛大に涙を流した。
それから少し経つと、さっき店裏に入って行った店員が戻って来た。
そして泣いている俺を少しの間見つめた後
店『...僕、お母さんは?』
俺『...家出してきたんや』
店員『そうか...お金とかは...無いよなぁ?』
そう言うと、店員さんは店裏に戻ってしまった。
仕方ないので、ここで泣いていたら他の客の迷惑になる、と思った俺がそろそろ店を出ようかと動いたその時...
店『こんなのでよかったら食べる?
あ、他のお客さんにあまり見られない様にこのまま黙って外へ出な』
と言って手渡してくれたのは、廃棄時間を迎えた弁当だった。
俺は泣いて感謝した
僕『お兄ちゃん、ありがとう...』
店『何かは知らないけど、お母さんも心配してるからもう帰るんやでっ?』
そして弁当と店員さんの自腹で買ってもらったお茶の入ったレジ袋を抱えて、俺は店を出た。
まさかこんな事をしてくれる人が現実にいたなんて想像もしていなかった。
...実はこの人に憧れてコンビニ店員のバイトを勤めてた、というのはとっておきの秘密話です//
俺はとりあえず、店の外にある車を止める石段に座って弁当を食べる事にした。
弁当は米が少し硬かったりしたけど、空っぽのお腹には今までにないくらい美味しく感じた。
腹ペコだった俺は弁当を全て平らげた後、今後どうするかを考え始めた。
店員さんは帰ったほうがいいって言ってくれたけど、僕にも一応プライドがある。
あそこまで言っておいて今更帰る事なんてできない。
かと言って、さっきの様に万引きや物乞いなんかで生きていきたくもない...
俺の旅は、またさらに行き詰まる事となってしまった。
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