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いや、それでもやっぱり戻れない―――
そう心に決めると、俺はまたあても無く歩き出した。
決して振り返らないように、早足で夜の冷たい空気を切って進んだ。
今後の生活はどうにでもなる、ならせてみせる
そんな事よりも、格好つけて家を飛び出したあとに情けない思いをしながら帰ってくる事の方がよっぽど悔しい。
俺はひたすらに歩き、大きな橋まで辿り着いた。
この橋は、真ん中にある大きな川を渡るために約6~700メートルの長さで造られている、とても大きな橋だ。
橋というのは少なくとも俺にとっては不思議なもので、橋を渡り切った向こう側とこちら側とでは全くちがう場所が広がってるんじゃないかと錯覚させられる。
こういう、毎回渡り切った時に新鮮な気分になれるのも悪くはない。
余談になるが、俺はどちらかと言うと比較的橋が好きな方な人間だ。
よくいろんな作家の作品の中でも『希望の掛け橋』やら何やらと表現されて出てきたりもするし、まさに当時家出していた時の俺にも、その橋は希望、もとい新たな世界の始まりの象徴のようにも見えた。
俺はここを渡り切って遠い所に行くんだ。
あんな親なんていない、毎日自由に暮らせるんだ。
もう、あんな生活には戻らなくていいんだ...!
...だが、浮き足立っている間にも何かが俺の中にわだかまっていた。
嬉しいし、楽しみにしているはずなのに、気分もうきうきしているのに...
本能が俺をその場に縛り付けて放さない。
.....そういえば、アイツはどうなったんだろう
不意に頭に浮かんだのは、最初に別れた弟の事だった。
アイツは、もう家に帰っているだろうか
もしかしたら、見つけられなかってまだ暗い廃工場の中で、寒さと空腹に悶えながら丸くなっているかもしれない
不審者に命の危機にさらされているかもしれない
...たしかに、両親が嫌いで家を出た。
だけど、俺は決して弟を嫌いになったわけじゃない。
そりゃアイツも減らず口だから喧嘩ばかりするけども....
アイツは俺のたった一人の兄弟だもんな。
俺一人だけ楽するわけにはいかないよな...?
直後、俺はやっと辿り着いた橋に背を向け、来た道を戻るために走り抜けた。
辺りが暗いからか、走っていると自分がとても速いスピードで走っている様にも思える。
ほんと馬鹿だよ。
ここまで来たのに全部無駄に時間を使っちまっただけ...
...ったく、世話のやける弟だ
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