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今、俺は馬鹿みたいに夜の国道を走っている。
一人の弟の身を案じて、息が切れているのも忘れて無我夢中で走っている。
前から来た自転車に乗った人とすれ違う。
案の定俺が通り過ぎた後に振り返ってみると、自転車の人は俺の方を振り返っていた。
だが俺と目が合った事を知ると、そそくさと前を向いて去っていってしまった。
いつもなら難癖をつけるところだが、今は全く気にならない。
俺は今まで、弟をここまで心配した事はない。
おそらく心のどこかでひとりぼっちを怖がっている自分がいて、ただ単に弟という道連れが欲しかっただけなんだろう。
でも、今はそれでも構わない。
俺は信号すら見えていないという風に帰路に沿って走った。
工場までは、走ってあとどのくらいかかるだろう?
などと考えてみるが、所詮意味のない事だと気付く。
だってそれを計算したところで、もっとスピードを上げて走ればもっと早く着いてしまうじゃないか。
要するに、考える時間があるなら根限り走れって事だ。
あともう少しでアイツが入って行った場所に着く...
足の限界なんてとうに越えてしまってたけど、まだ俺は走った。
走って
走って
走って――
その先に待っていたのは予想もしなかった閉幕だった。
俺が走っていると、近くに見慣れない車が1台停車した。
構わず通り過ぎようとすると、中から人がでてきて『絹矢くんだよね?』と声をかけられた。
あまりにも突然の出来事で、俺は思わずその場で立ち止まってしまった。
『絹矢やんな?』
とさらに続けられるが、俺はこの人をしらない
俺『そうですが...?』
と警戒しながら返す
『よかった。あ、私はお母さんの知り合いで、今みんなで絹矢くんのこと探してたんよぉ』
みんなで...?
『なかなか見つからないからお母さん今警察へ捜索願出しに行ったところなんよ
すぐ連絡しやな!』
と言って、その人はどうやら母に電話しだしたらしい。
まさかこんな所で捕まるとは...
俺『すみません、弟は知りませんか!?
アイツ工場に隠れてて...』
『あぁ、弟くんなら家出した後、10分もしないうちに帰って来たらしいよ?』
.....こうして俺の、中身のないただただ無為な一日が幕を閉じた。
俺はこの後待っている説教なんかよりも、弟を一度殴り飛ばしてやる事のほうが待ち遠しくて仕方がなかった。
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