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『〇〇、夜中にごめんな...』
ある日の夜中、俺はお父さんの消えそうな呼掛けによって夢の中から現実に引き戻された。
何事かと布団から這い出て二段ベッドから降りようとする俺をお父さんは抱き抱えて、そのまま眩しい光の満ちるリビングへと連れて行った。
そこには椅子に座った母が待ち構えていた。
お父さんも近くの椅子に座ったので、俺も成り行きに従い自分のいつもの椅子に座る事にした。
やがて、母が意を決したような表情になったかと思うと、それまでの沈黙を破った―――。
母『〇〇、眠いと思うけどよく聞いてな...
お母さんとお父さんな、離婚することになったんよ...。』
俺は呆然とした。
別に衝撃的とかそういうのじゃなくて―――
俺『ねぇ、離婚ってなんなん?』
当たり前だ、そんな言葉を小一が知るはずもなかろう。むしろ知ってほしくは無いはずだ。
父『離婚っていうのは、お父さんとお母さんが離れて住む事を言うんよ。
離婚したら滅多に会えやんようになってまうんやけど....』
母『そんで、あんたにはどっちについて行くか決めてもらおうと思ってるんやけど.....
お母さんとお父さん、絹矢はどっちと一緒に住みたい?別に気ぃ遣わんでいいから正直に言ってみ?』
一通り聞き終えた幼い俺は、さらに呆然としてしまった。
なんだ、そんな事だったのか。
俺『じゃあ僕、お父さんと一緒に住むわぁ!
あっ、それやったら荷物用意しやなあかんなぁ。
ちょっと行って来るなぁ!』
もちろん両親は共に目を丸くした。
俺も今思えば馬鹿なことしたと思うよ、顔から火が出そうだ...
いくら幼かったとはいえ即答なんてなかなかあるもんじゃない。
母『〇〇、ちゃんと意味聞いてたん...?
気ぃ遣わんでいいんやで!?』
俺『うん、会えやんようになってまうんやろぉ?
じゃあお父さんとこ行くわっ!』
たしか...たしかその時母は泣き崩れたような、そうじゃないような.....
いや、多分泣き崩れたような気がする...。
母『...〇〇、明日の晩までによく考えとくんやで...。
まだ時間あるからゆっくり決めなぁ...』
父『〇〇....』
その後俺は部屋に戻り、弟を起こさないように静かに眠った。
明日起こる策略も予想せずに―――。
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