あたし2

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この大きな家で一人、話し声も足音もしない静かな空気の中で自分の吐息だけを感じながら時間を過ごすのが好きだった。 二階の北側にある父の書斎はあたしの中では『大人の場所』で、そこに入ると自分も大人に慣れたような気がしていつもワクワクしていた。 ダークブラウン調のモノトーンで統一されたその部屋は、カーテンがいつも閉め切ってあって光がなく 自分が探偵もしくはスパイのようなことをしているようでいつも息を潜めて不思議なオブジェを物色していた。 そしてその探偵ゴッコにある程度飽きると、入ってすぐのドアの横にある毎月一冊ずつ父がセレクトして買ってくるまだ隙間の多いあたし用の本棚から、 ランダムに引き抜いた小説をリビングのソファーを独占して物語にふけっていた。
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