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手元の紙は、いつの間にかカブトになっていた。
放課後の教室。
佐山元春はため息をつき、カブトを広げる。
折り目がついた、進路希望の紙。
枠のなかは全て空欄。
元春は再びため息をつく。
行きたい学校なんてない。
一緒にいたい人はいるけれど。
気づけば窓の外は真っ暗だった。
今日中に提出しなければならないのに、もうすぐ下校時間になってしまう。
元春以外誰もいない教室は静まり返っている。
「……どうしよう」
つぶやくと同時に、教室のドアが開いた。
担任の宮内だった。
ちょっと福山雅治に似ている。
「佐山、まだいたのか」
「はい……」
「進路の紙は?」
「……えと」
「早く出しなさい」
元春は紙に視線を落とし、シャーペンを握った。
意を決して学校名を記入した。
恋人と親友の志望校名を。
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