虚無感

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「おー、やりますねー、久遠寺君」 飄々と言ってのける山崎の姿は枝の上。 ひょいひょいと無造作に枝から枝へと跳び移る動きには、宿禰も呆れる。 (山崎さんって猿とおいかけっこして圧勝しちゃうんじゃないのかな) こんなことを思いながらも、木々が根を張っているのも関係無いかのように地面を駆ける。 二人の姿を辛うじて見失わない距離を保って走る島田からすれば、二人とも大差のない運動神経である。 「島田さん、大丈夫ですかー?」 山崎はそう言いながら枝の上から飛び降りると、猫のように着地する。 宿禰も脚を止めて島田を心配そうに見るが、島田は隠密行動にはあまり向きそうにない巨躯を休ませること無く追い付くと二人に笑顔を見せる。 「私なら大丈夫ですよ。お二人を見失わない速さでなら走れますから、二人は遠慮しないで下さい」 島田は美丈夫ではないが、その笑顔は優しい感じがして心地がよい。 だからと言って柔和一辺倒ではなく、その腕は逞しい。 それほどの巨躯を誇りながらも、山中で山崎と宿禰を見失わずに走れるのだから大した俊敏さである。 再び走り出すと、山崎は楽しそうに宿禰に話しかける。 「いっそのこと監察方に来ませんかー?久遠寺君なら優秀な監察になれますよー」 話を聞いて、苦虫を噛み潰したかのような宿禰の顔を見た山崎は笑う。 まさかここまであからさまに嫌そうな顔をされるとは思っていなかったので、ついつい笑いが出たのだ。 「やっぱり剣の仕合の方が良いですか、久遠寺君はー?」 「ええ、暗殺とかはちょっと……」 宿禰は寝首を掻くような真似があまり好きではないのだ。 二人が話しながら進んでいくのに、島田はひたすら呆れながら、見失わないようにしながら走り続ける。
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