虚無感

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しばらく進めば薫るのは死の香り。 濃厚な血の香りが三人の鼻腔に飛び込み、警戒心を強くさせる。 進むにつれて強くなるむせかえる程の血の香りに、山崎は顔をしかめる。 「ぅー……気持ち悪い……」 血が苦手な訳ではない、むしろ血が苦手ではとてもじゃないがやっていけない仕事を任されていて、血の香りには慣れている山崎をして気持ち悪いと言わせるほどの血が流れたとしか思えない。 人一倍鼻が良いのが祟ったとしか言いようがない。 それでも足を引っ張ったりはしない辺りが山崎の凄さである。 先程までの速さで登り続けると、多少開けた場所に出るが人影はない。 あるのは紅い海。 黒が混ざった紅い海に、もはや人ではない脱け殻が横たわり、その体を汚していた。 宿禰は胃の腑から込み上げるものを必死で堪える。 死体を見るのも、血を見るのにも慣れたつもりでいたのに、体はその光景を見るのを拒もうとする。 まさに地獄や穢土と言ってもおかしくない光景を宿禰にこれ以上は見せまいと、山崎は気を回す。 「久遠寺君、局長達に連絡に行って下さい。長州藩兵を発見。ただし、全員自害、と」 山崎の声は冷めきっていて、淡々と宿禰に仕事を与えてその場を離れさせる。 宿禰がいなくなると、山崎は嘆息して島田に話しかける。 「何か気分悪いですねー」 島田は黙って頷きを返すだけで一言も口にはしなかった。
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