回顧

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那美に連れていかれる宿禰を見送って、原田は笑っていた。 「久遠寺の奴、随分と可愛い彼女じゃねえか!ったく、羨ましいもんだぜ、若いってのはよ」 自分も十分若いと知っていながらも、あれほどまでに初々しい関係はもはや出来ないと感じているからか、羨ましく思えてくる。 ひとしきり笑うと、原田は矛を手に取って振るい始める。 矛は槍ほど使い慣れていないために、槍に比べれば数段見劣りするがそれでも中々の腕だと自負している。 しかし、宿禰と那美のことが気になって身が入らなくなって再び縁側に腰を下ろす。 「あのヤロー、帰ったら根掘り葉掘り聞いてやる!!」 宿禰からすれば非常にありがたくないことを決意して、原田は道場へと足を向けた。 一方、屯所の門の外の通りにて。 顔の紅潮が引かずに困っている那美が、宿禰にそれを見せまいと手を引いて歩いていた。 原田の言葉と手が頭から離れずに、何度も繰り返される。 那美は自問を繰り返し繰り返し行っているが、行き着く結論は常に同じだった。 そのことを意識させられるのが気恥ずかしくて、つい宿禰の顔を見ないようにしている。 しかし、偽らざる気持ちなのはたしかなので、いつかは正直に言えるようになったらいいなぁ、と考えていると、宿禰が話しかけてくる。 「えっと……約束破ってすみませんでした……」 シュンとしょげている宿禰の姿は、自己帰結した那美にとってはとても可愛くて思えて、思わず口元が緩んでしまうが、宿禰の次の一言は予想外のものだった。
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