回顧

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「原田さんが暴走しちゃって……嫌な思いをさせちゃってすみませんでした……」 頭を下げる宿禰を見て、那美は溜め息をつかずにはいられなかった。 (久遠寺さん、鈍感過ぎる!!) 那美が心の中でそう思うのも露知らず、宿禰は再びシュンとしてしまっている。 普段は新撰組の隊士として行動していて、どこか遠い感じがしていた宿禰。 その彼が自分と変わらない年齢の男の子なんだと実感できて、那美は少しだけ嬉しく思っていた やっと紅潮が引いてきた顔を宿禰の方に向けて、那美は宿禰の頭を上げさせる。 「原田さんのことは気にしてませんから、謝らなくて大丈夫ですよ、ね?」 笑顔を交わして、二人は自然と手を繋いで歩いていく。 原田の推測はあながち間違っていなかったようである。 宿禰が那美の心情に気付けていないせいで、完全には当たっていなかったのだが、原田の勘、まさに恐るべし、だ。 「そう言えば、どうしても見たいものって何だったんですか?」 宿禰は那美と約束した日の会話を思い返して聞いてみる。 具体的には聞かされていなかったが、那美がとても楽しそうにしていたのは覚えていたので聞いてみると、那美は笑顔で答えた。 「えっと、歌舞伎の公演があるから、久遠寺さんと見たかったんですよ」 歌舞伎は元禄時代に人気となった文化で、民衆の人気が絶大であった。 宿禰は歌舞伎を見たことがなかったためによくは知らないが、歌舞伎が人気と言うことだけはわかっていた。 那美につれられて芝居小屋に入れば、初めて見る花道に目をとられ、いつの間にか那美にあれやこれやと質問していた。 まるで初めて玩具を見た子供のようで、とても楽しそうな宿禰に那美も笑顔になっていると、舞台の幕が開く。
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