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彼の人形に出会ったのは、そんな折だった。
最新のニュースを様々な角度から見て甘辛くコメントするお気に入りの社会派ブロガーが、自身のブログに珍しく、ニュースに関する話題ではなく彼の名前を出したのだ。彼の名前と彼のホームページアドレスが貼り付けられたその記事は、最後に「スゴい。」とだけ書かれていた。
それに興味を持った私は、早速そのアドレスにアクセスした。そして、言葉を失ったのだった。
あれから5年。連載コラムを持たせてもらって、彼のことを書きたい一心でやってきたこの連載も、今回の号で100回目になる。記念すべきこの回はどうしても、私の憧れであり、同時に今最旬でもある彼について書きたかったのだ。
――売り上げなんて、どうだっていい。私は彼について、いい記事を書きたい。それだけ。
私はプロットに目を走らせながら、同時に手帳に明日彼に質問する内容を書き上げていた。
都内郊外にある、彼のアトリエ。私はカメラマンの間宮とそこへやって来た。
「なんか変な取材ッスね。人形だけ撮りゃあいいって、俺初めてだな」
「人形ったって、彼の作った人形はほとんど生身の人間と遜色ないわよ。心して撮りなさい」
彼は海外のコンクールで賞を総ナメにして話題を集めてはいるものの、名前ばかりが有名になってしまっていて、その作品は大衆にはあまり知られていない。彼の作品の素晴らしさを知ってもらうために、新人でありながらその写真の腕は編集部随一と言われる間宮を取材に同行させたのだ。
「…宮木の顔は撮っちゃダメなんスよね?」
「絶ッッッ対ダメ!!そう言われてるの!!彼の信用を裏切りたくないのよ!!」
声を大きくした私を見て、間宮は目を丸くした。そして続けていやらしい笑みを浮かべる。私と宮木の間にありもしない関係を見たのだろう。私は言い訳すると疑いをより濃くするだけだと思い、敢えて弁解はせず、行くわよ、と言って足を踏み出した。
通されたアトリエ内はしんとしていて、空気が張り詰めているようだった。前を歩く宮木も、私も、間宮も、皆無言。フローリングの床をスリッパでぺったらぺったら歩く間抜けな音だけが響く。私はその音源である間宮を睨みつけたが、彼はアトリエ内を興味津々でキョロキョロ見回していて、私の視線には気付かない。
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