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「散らかってますが…どうぞ」
作業部屋に通され、椅子をすすめられる。私と間宮はありがとうございます、と会釈して座った。
部屋の中にはたくさんの女性が並んでいる。それらは表情こそ違えど、どれも同じ顔をしていた。彼女達の美しさに、間宮が息を飲む。その正しい反応に、私は1人、頷いた。
「今回は取材を許可していただき、ありがとうございました。こちらがカメラマンの間宮、私は記者の内海詠子と申します。今日はよろしくお願いします」
私が一礼すると、間宮もそれに倣う。宮木は何も言わない。顔を上げると、彼は何かを観察するかのような目で、私を見ていた。私は気恥ずかしさを覚えながらも、同様に記者の目で彼を観察する。
色素の薄い細く長い髪は、後ろで1つに束ねられている。肌は職業柄外にあまり出ないのか、彼の作る人形と同様に色白だ。二重の目はどこか冷たさを秘めていて、何を考えているのか窺い知れない。黒縁の眼鏡をかけていながら目を細めているが、かなり視力が悪いのだろうか。薄い唇にはあまり色みがなく、病弱そうに見える。体の線は細く、背が高い。女性のように見えなくもない姿だが、その唇から紡がれる言葉は、男らしいバリトンであった。
「写真に撮るのはこの部屋の中の人形だけでお願いします。私の顔は映さないという約束は、守っていただけますね?」
念を押すように、静かに彼が言う。私は「もちろんです」と言うと、間宮に目配せした。間宮は頷くと、カメラを携えて席を立った。
「では、取材に移らせていただきます――」
「では、この質問を最後にさせていただきます」
人形師になろうと思った動機や、苦悩や挫折の経験の有無など、他の匠にも聞くありきたりな質問と少しの雑談を終え、私はようやく、私自身が最も聞きたかった質問を口にした。この答えは、過去に私の迷いを断ち切ったものに対する答え。彼がどんな答えを出すのか、私は些か緊張した面持ちで待った。
「貴方の作る人形は、全て同じ顔をしている。それが幼子であろうと、成熟した女性であろうと。私にはそれが、1人の女性をモデルにその人生を追ったかのように見えるのです。そのような作品を作り続ける理由を、教えて頂けますか?」
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