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「……あら、永琳。まだ起きてたの? …私もちょっとね、なかなか寝付けなかったから暇潰しに庭を散歩しようかなって思っていたの。…ほら、折角だから永琳もこっちに来なさいよ。たまには一緒に月夜の散歩も悪くないわよ?
……ふふ、永琳とこうして二人っきりで歩くのは何年振りかしら。 ついこの間までは私が永琳の右隣で腕を組んで、因幡が左隣で手を繋いで。
てゐはその先頭をススキを持って歌いながら歩いてたわね。 あの日もそう、ちょうどこんな感じの綺麗な満月で………もう、あの頃から何年になるのかしら。
因幡もてゐも居なくなって…今じゃこの永遠亭には私と永琳だけ。 もうあの頃の活気も、喧騒も、二度と戻らない……。
あの二人も………。
……なんだか少しだけしんみりしちゃったわね。…ほら、貴女までそんな暗い顔をしないで。 だって、最初から判りきっていた事じゃない。
私達とあの子達は違う……私達は、死の概念を忘れた存在。 常に周囲から置いてゆかれる不死の身……。だから、こうなる事だって、覚悟していたの。
……でもね、おかしいの。今までだって沢山の死別を経験したというのに、あの子達のを思い出すと、凄く息苦しくなるの。幾百、幾千と月日が流れ、膨大な過去が募ろうとも、あの時の、あの子達が居た日々がまるで昨日の事のように鮮明に蘇るの。…ねぇ、永琳には解る? 今、私の中を巡る、この難題の答………」
私は応えれず、ただ、今にも泣きそうな彼女の笑顔をそっと自分の胸へと抱き寄せた。 彼女の抱える難題に、同じく不死を生きる私には彼女に答えれる正しい解答など持ち合わせていないから。
それでも、こうして抱き寄せる彼女の小さな身体から伝わる苦しみも悲しみも、不死の月姫である蓬莱山輝夜のではなく大切な者を無くして悼む、普通の少女となんら変わらないその感情は、決して間違いないではないんだと…私はそう思っている。
―END―
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