唯、それだけが王女の願い。

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    「……咲夜、まだ起きてる? あぁ、良かった、まだ起きてるわね。今夜は貴女と少し話がしたくなったから訪ねにきたの。それと、貴女の容れた紅茶も飲みたくてね。 ……あぁ良いのよそんなに慌てて用意しなくても。 まだ夜は更けたばかりなんだからゆっくりすればいいわ。 …ほら、貴女もちょっと外を見てみなさい。 今夜はとても空が晴れて月がよく映えてるわ。 以前パチェから教えて貰ったことがあるの。 今夜の月を十六夜というのよ。……そう、貴女と同じ名前。 覚えてるかしら? 私と貴女が初めて出会った時も、丁度こんな月の晩だったのを。 月明かりに照らされた貴女の髪がとっても綺麗で、貴女の所有してるその銀ナイフよりも美しく輝いてたのを……あら、顔が真っ赤じゃない。もしかして照れちゃってるの? ふふ、可愛いいわね。 …あははは、ごめんなさい。貴女がそんな可愛らしい仕草をするから、ついからかいたくなっちゃったのよ。 ……ねぇ、咲夜。 貴女はこの紅魔館の中で誰よりも私に忠実で、最も信頼の置けるメイド。 こうやって淹れてくれる紅茶の味も、香りも、貴女より上手に淹れてくれるメイドなんてなかなか居ないわ。 ……だけど、後数十年もすれば、こうして貴女と会話することも、貴女の淹れてくれた紅茶も飲めなくなる。 一緒に出歩くことも、月を見ることも。 ………何故なら貴女は、人間だから。 例え今は同じ様に歩めるとしても、いずれはズレが生じる。 …吸血鬼と人間とでは同じ道を歩むことは出来ないの。 だから…ね、咲夜。 貴女も私と同じ、吸血鬼になりましょうよ。 そうすれば、私達は永遠に一緒よ。 同じ時を歩むことも出来るし、老いることも死ぬことも無い、今よりも完璧で瀟洒なメイドになれる。 貴女が望むなら、直ぐにでも吸血鬼にしてあげるわ。人間として儚く死ぬ運命なんて、私の能力で変えてあげるわ! どう? 咲夜?………それだけは無理って顔ね。 …ううん、良いのよ。 嫌なら正直に言ってくれれば。それに……貴女が断ることぐらい、本当は判っていたわ。 ただ、もしかしたら…ってほんの少しだけ期待しただけよ。だからそんな申し訳ない顔なんてしないで。 貴女はあの肝試しの夜に言ったように、死ぬまで死ぬ人間で在り続けてくれればいい。 例えそれが刹那の一時だとしても…貴女にはずっと、私の傍に居て、仕えていて欲しい。
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