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余り音の鳴らない、真新しい扉を開ける。
何故か眩しく感じる夕焼けが照らす教室。既に中はもぬけの殻。部活のある者はさっさと行かなければ後輩に示しがつかないし、暇だからといってこんな教室でたむろする程物好きな奴はそういない。暇を持て余している奴等も、こんな何もない場所に残るくらいだったら、さっさと駅前で若者らしい享楽に耽ってしまった方が断然健康的。
だから、こんな物悲しい教室に残っているそいつは本当に変わった奴なのだろう。
「…………」
同じ空間に入ってきたにも関わらず、こちらに全く気付かずにただ夕焼けに染まる空を眺め続けている彼女。
ああ、それにしても、なんで彼女は夕日のなかでこんなにも映えるのだろうか。と、そんな言葉が頭に浮かんで、なんて馬鹿なことを考えているのだろうと頭を冷やす。
すると、幸か不幸かそんな冷えた頭がその疑問について簡単に答えを見つけ出す。
何、別段そんな大したことじゃあない。
ただ、彼女の髪が、黄金(こがね)の流れを思わせるそれが、夕焼けのなかで美しく輝いているから。
その姿をなんて形容しようかなんて考えてみようとも、俺の不出来な頭では、ただ綺麗だ、とか、美しい、だとかの陳腐な文句が邪魔をして何の言葉も出てきやしない。
「よう。どうしたんだ、こんな時間まで?」
そんな、聞かれたら明日からは別人を偽って生活しなきゃならないようなメルヘン思考を端に避けて、そんな彼女、藤ノ宮累奈に話しかける。
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