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「お、優希。どこ行くんだ?」
のんべんだらりとした授業を終えた放課後。
あ、いや誤解のないように言っておくけど、うちの先生方がやってる授業が駄目な訳じゃないぞ? 単純に俺の知能レベルが追いつかないからのんべんだらりとしちゃったんだからな?
「あれ、孝章?」
俺が声をかけると驚いたような表情でそう返す優希。
「僕はこれから妹の教室に行くんだけど……。逆に孝章は授業中どこ行ってたの?」
ああ、最近恒例になった妹の送り迎えか、なんて前に聞いた話を思い出しながら、優希の質問に苦笑いを返さずをえない俺。
正直な話。今の時間は、放課後といいつつも丁度授業が終わったところ。つまり教室を出てきた優希と廊下で鉢合わせをするなんてことは普通ありえない。
まあ、簡単に言えば途中で抜け出しちゃったってことだな。
「いや、ちょっと腹の調子が悪くてさ。皆の前で言うのも恥ずかしいからこっそりと……?」
軽くおどけながらそう事情を説明する俺。なんだかんだ言って後ろめたい所もある上、優希はこういった所謂悪いことに関して非常に手厳しい。
怒鳴ったりする訳ではないが、なんていうか……気分的に言うと、優しいお婆ちゃんに怒られているといった感じ。
「もう、そんな事しちゃ駄目だよ? ユキ先生も困ってたんだからね」
「うえっ、ユキちゃん気付いちゃったんだ?」
そう言って『しまった』と心の中で呟く。
普段のユキちゃん(生徒から親しみをもってそうからかわれている)なら、いつも判り易過ぎるぐらいに優希を気にしているから、生徒の一人や二人がいなくなったとしてもあんまり気が付く事はない。多分、今日は運悪く何か俺に連絡することでもあったのだろう。
ああ、全くもって申し訳ないことしたな……。
「あ。そういえばユキ先生、孝章が何か忘れてるみたいな事を言ってたかも」
優希の言葉にやっぱりとまた苦笑い。
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