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本論③ -「自然の象徴」としての大樹-
宮崎駿は、「ルパン三世」に代表されるような豪快で生き生きとした動きや、「アルプスの少女ハイジ」に代表されるような人間のさりげない仕草も逃さぬこまやかな描写など、映像的な評価はもちろん高い。
しかし、宮崎について私がもっともすばらしいと思うのは、彼のもつ独特の〈自然観〉にほかならない。
ラピュタといえば、あの、城の中央に立つ大樹が印象的である。
あの大樹にこそ、宮崎駿の自然観が如実に表れている。
ムスカはラピュタという驚異的な科学力を持つ飛行要塞都市を手に入れ、世界を支配しようとしていた。
シータとパズーはそれを阻止するため「滅びの言葉」を叫ぶ。
二人の言葉に呼応して、城の動力源である飛行石の結晶は台座を離れ、天へと突き抜けていく。「滅びの言葉」とは、飛行石の結晶を開放し、ラピュタを崩壊させる呪文だったのである。
動力源を失ったラピュタは、驚くほどあっけなく崩れ去っていく。
…はずだった。本当なら。
本来ならばラピュタは崩壊し、海へ落ちていってもよかったのだ。だが、そうはならなかった。宮崎駿はそうはしなかったのである。
天井を突き抜け空へ放たれるはずだった飛行石は、あの大樹の根にひっかかりそのまま抱きかかえられる形で空へ上っていくのだ。上へ、上へと。
大昔、ラピュタ族の人々は、城を捨て地に下りた。
だが、あの大樹は、人々が去った後も常にそこにあり続けた。
そして、園丁ロボットが世話し小動物たちが戯れるあの庭園にやわらかな木漏れ日を与え続けるその下で、静かにその根を張り、あの恐ろしい兵器をも包み込もうとしていたのだ。
ムスカとシータが足を踏み入れた時、ラピュタの中枢にはすでに大樹の根が入り込み、城の動力源である飛行石の結晶もすっかり根に覆いつくされていた。あれはあのラストシーンへの布石であったのだ。
人間の英知と欲望で作り上げた「人間の業」の象徴ともいえる飛行石(人造物)を、大樹の根(自然)が包み込む。
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