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篠田くんはまた引き返してきて、私の目線に合わせるように膝を屈めた。
「……なに?」
真正面から見つめられて、顔が熱くて仕方ない。
「あ……、えっと、あの……」
何だか恥ずかしくなって、上手く口が回らない。
そして、迷った末に出た言葉が、
「私も……明日でいいです……」
……これだった。
情けない。
っていうか、ヘタレすぎる。
少なからず落ち込んでみせる私を見て、篠田くんが吹き出して笑い、私の頭をくしゃくしゃに撫でて、
「分かった。明日な」
そう言って、手を離し、
「おやすみ。乙華」
そう言って、暗い夜道に姿を隠していった。
「お……、おやすみなさい!」
叫ぶ私の声に、暗闇の中で、軽く腕を上げるのが見えた。
「明日……」
彼の言葉を繰り返し、もうそこには誰もいないのに、胸がギューッと締め付けられるみたいに苦しくなる。
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