「気付いたんだ」

13/23
前へ
/536ページ
次へ
篠田くんはまた引き返してきて、私の目線に合わせるように膝を屈めた。 「……なに?」 真正面から見つめられて、顔が熱くて仕方ない。 「あ……、えっと、あの……」 何だか恥ずかしくなって、上手く口が回らない。 そして、迷った末に出た言葉が、 「私も……明日でいいです……」 ……これだった。 情けない。 っていうか、ヘタレすぎる。 少なからず落ち込んでみせる私を見て、篠田くんが吹き出して笑い、私の頭をくしゃくしゃに撫でて、 「分かった。明日な」 そう言って、手を離し、 「おやすみ。乙華」 そう言って、暗い夜道に姿を隠していった。 「お……、おやすみなさい!」 叫ぶ私の声に、暗闇の中で、軽く腕を上げるのが見えた。 「明日……」 彼の言葉を繰り返し、もうそこには誰もいないのに、胸がギューッと締め付けられるみたいに苦しくなる。
/536ページ

最初のコメントを投稿しよう!

153899人が本棚に入れています
本棚に追加